「クロード・・・。」

レオナと呼ばれた少女は自分の前に現れた少年の名前を呼ぶ。

少年、クロードは持っていた長剣で魔物の爪を押し返すと剣を構えたまま声を上げる。

「この馬鹿! 行き先くらいちゃんと言ってから外に出ろ!」

普段温厚な彼がこのような事を言うのは珍しく、レオナは驚いて目を見開いた。

「おまけに、僕が来なかったらどうなってたと、思ってるんだ!」

そう言って彼は魔物に切りかかる。

彼の剣技はとても軽やかで魔物の攻撃を見切っているようだ。

魔物にすきを与えず連続で攻撃する。

「・・・心配した。」

小さく彼は呟く。

暫く外を散歩して帰ってきたら宿屋にはレオナの姿がない。

彼女も散歩に行ったのかと思い、ずっと待っていたが、待てど待てど帰ってこない。

心配になり、辺りを探していたらこの場面を目にしたのだ。

もし今が夜でなく、月が出ていなかったら・・と考えるとぞっとする。

彼は月のでる夜にしかこの本来の姿に戻ることが出来ないのだ。

鳥の姿である時、自分は無力に等しい。

「ごめんなさい・・・。」

レオナは俯いて言った。

彼の声色から自分を心配していることが痛いほど伝わってきたから。

「・・・ともかく、無事でよかった。レオナ、援護を頼めるか。」

彼女の言葉にクロードは安堵の表情を見せる。

そして表情を引き締めて彼女に問いかけた。

レオナはそれを聞き、頷く。

 

「我を包む穏やかなる風の華よ、悪しき者の元に種を蒔かん」

レオナの足元の魔方陣が輝きだす。

クロードは魔物の懐に入り、一気に切り上げる。

さすがはドラゴン系、生命力は相当なものだ。

致命傷なる攻撃は何度かくらわせたのにまだ、立っていられるとは・・・。

クロードが攻撃を加えている間もレオナの詠唱は続く。

「契約者の言霊と共にその華の芽、開花せん!!」

彼女は真っ直ぐに魔物を見据える。

「クロード!!」

彼女の声を聞き、クロードは攻撃を止めて彼女の方へ駆け寄った。

「エアロスピンズ!!」

少女の詠唱と共に魔物の足元から巨大な竜巻が湧き起こった。

魔物が竜巻に飲み込まれていく。

逃げようとしても魔物の足元から湧き上がっているのだ。

逃げることは出来ない。

魔物は大きな叫び声を上げながら消滅していった。

 

 

それを見たルカはへたりと地面に座り込む。

緊張感が一気に抜けた。

栗色の髪の少女と金髪の少年は互いに見つめあうと微笑み合う。

そして、少年はゆっくりとルカに向き直ると微笑んで言った。

「もう、大丈夫だよ。」

少女もルカを見つめている。

「・・頭痛は、治まった?」

ルカはふと、自分の頭に触れてみる。

あれだけ痛かった痛みが嘘のようだ。

いつから治まっていただろうか。

「あ・・はい、大丈夫です・・。」

ルカはまだ、目の前で起こったことが信じられなくてぼんやりと言った。

魔物に襲われた恐怖がまだ抜けない。

立ち上がりたくても、まだ腰が抜けて立てない・・。

格好悪い・・・。

 

「いいのよ、無理して立ち上がらなくて。」

栗色の髪の少女、レオナが彼女を見て言った。

「立ち上がったら、もう進むしかなくなるから・・・。」

どういう意味なんだろう・・。

ルカは意味が分からなくて目の前の少女を見つめる。

 

「でも、運命には抗えない。」

一拍おいて少女の声が冷たく響く。

少女とルカの視線が合う。

目が逸らせない・・・。

 

 

 

「どうするの? 歯車の1人、ルカ・ネオタール・・・。」

 

 

その時。ルカの中の時が止まった気がした。

 

 

 

 

 

第十八章 〜栗色の姫君、金色の騎士〜 Fin